さて、多目的室の隅で休んでいる直姫のところへ近付いてきたのは、数人の少女たちだ。
下の姉役の松浦美穂子嬢は、稽古の時によく話すようになったので、人の顔を覚えるのが苦手な直姫でも、もう完璧に覚えている。

ちなみに上の姉役になったのは、最初に麗華へフォローを出した、時田という男子生徒だ。


「西林寺くん、お疲れ様」
「なにかお飲み物はいかが?」


松浦嬢は、プラスチックのコップの乗ったトレイを持って、軽く膝を曲げてみせた。


「あ、いただきます。わざわざありがとう」


トレイに一つだけ乗っていたアイスティーのコップを受け取って、笑顔で礼を言う。

休憩中のクラスメイトたちに飲み物を配って回っているらしく、彼女の後ろには、同じようにトレイを持った女子生徒が三人控えていた。


「いいえ、私たち、通しの練習じゃ空き時間がたくさんできてしまうの。だから構いませんわ」
「そっか。優しいね」


にこりと微笑むと、松浦嬢が頬を染めてはにかむ。
空になったトレイを胸の前に抱えて、彼女は伏し目で言った。


「で、でも西林寺くん、男の子なのに女の子の役なんて、大変ね」


直姫は、口許だけで苦笑する。
そして、自分の姿を見下ろした。


「まあね。動きにくいし」
「よくお似合いですわよ?」
「でも、こんなに気品のあるメイドさんがいたら、お嬢様と間違えられてしまいそう!」
「それもそうねえ」