とんだ茶番劇に付き合わされたものだ。
夏生を好きだと言って来日した少女は女装趣味の少年で、実は本当の初恋の相手は直姫で。
狂言誘拐が夏生の気を引くためというのだって口実で、あれは単に、人の気も知らずに面白がって夏生とのお忍びデートを計画した直姫への、腹いせというか、なんというか。
もっとも、幼心に抱いていた恋心はとっくに風化していたようだが、それでも頭にくるものは仕方がないのだそうだ。
そんなの最初からはっきりせずにいた自分が悪いんじゃないの、という夏生の言葉にも、里吉はふてくされた表情を返しただけだった。
人騒がせにもほどがある。
あっけらかんと真相を告げる里吉に、夏生は腹が立つよりもむしろ、呆れ果てるしかなかったのだった。
「夏生先輩?」
「……なに」
名前を呼ばれて、目の前にいる事の元凶(本人が知らなくてもそうにほかならない)を見た。
低い位置にある頭。
確か自分とは、15cm近い身長差があったはずだ。
「珍しいですね。先輩がぼーっとしてるなんて」
「うっさいよ、ちび」
「な、なんですか、いきなり」
夏生の突然の悪態に、わずかに眉をひそめる。
だがそれほど気にしていないのか、すぐに再び窓の外に目を移した。