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ふたりで、話す話題なんかないのだけれど、そこに並んで立っていた。
なんとなく、なんの気なしに、大きな窓から見える景色、ちょうど飛び立とうかという機体を視界に入れている。
里吉があの飛行機に乗り込んだのはどうかは、さっぱりわからない。
ここから見えるうちのどれかには乗っただろう。
直姫は、コーヒーを三分の二ほども飲んでから、ようやく口を開いた。
「……サトちゃん、」
「ん?」
「ホモじゃないそうです」
「へえ」
「どういうことですかね?」
「さぁ」
「てゆうか、サトちゃん……キャラ違う」
斜め後ろに立つ夏生からは、眉を顰めて考え込む直姫の、後頭部と旋毛しか見えない。
難しそうな表情は、窓のガラスに写るだけだ。
夏生は、里吉と交わした会話を思い出していた。
昨日のことだ。
放課後、まだ誰も来ない生徒会室に、里吉が訪ねて来たのは。
彼も自分と同じ種類の人間だと、二週間前のあの日、同じ部屋に押し掛けて来た時から、夏生は気付いていた。
もちろん女装癖の話などではなく、他人の目に映る自分を偽っている、ということだ。
生徒会室に入った瞬間に、里吉の顔からは上品な微笑みが消えた。
だが、今となってはあのつまらなそうな顔も、彼の本当の姿だったのかどうか。
『私、別にホモじゃないの。中身が女の子ってのもウソ。かわいい格好は好きだけど、正真正銘の男だし、女の子大好きだし……あなた以外は気付いてなかったみたいだけど』
里吉はきっと、昨日自分に向かって言ったのと同じような言葉を、ついさっき直姫にも告げのだろう。
ずいぶんと砕けた口調で。
『昔、……小さい頃ね。あなたのこと、女の子だと思ってた』
『……は?』
それは単純明解で、夏生にとっては非常に不愉快な、真実だった。