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「それではごきげんよう、皆様」


やたらと大きなスカイブルーのトランクを隣に携えて、里吉が振り返った。

たいした揉め事もなく過ごした残りの一週間で、紅や恋宵とはずいぶん親交を深めたようだ。
帰国する日、空港まで見送りに行こうと言い出したのは、二人だった。
なぜかやけに里吉を気に入っていた榑松は、どうしても仕事が休めないからと、石蕗邸ですでに惜しみながらの別れを済ませている。

里吉の我が儘っぷりは、あの一件以来、すっかり鳴りを潜めていた。
来日当初より少し大人びた気もする表情は、今、やけに晴れやかだ。

そこで思い起こすのは、里吉がはるばる日本へやって来た動機である。


『夏生に会いに来た』


もとはといえば、そう言って生徒会室に乗り込んで来たんだったのではないか。
つまりは、その想いを遂げるのが目的だったはず。

これだけの行動力があるならば、帰国までにまったくなんのアクションも起こさないなんてことはないだろう。
里吉の性格を考慮しても、なにかしらのけじめをつけたと考えておかしくなかった。

けれどさすがにこんなタイミングで本人に確認するのも憚られるし、かといって夏生に聞いたところで詳しく教えてくれるとは到底思えない。
だが、そんな時の適任者が、生徒会にはいた。


「ところでサトちゃん、夏生とはどうなったにょろ?」


夏生が自販機を探しにその場を離れた瞬間に、恋宵が声を潜めて聞いたのだ。
空気を読めないようで読んでいる、こんな役回りは、だいたいいつも彼女が引き受けている。

里吉は戸惑ったように苦笑いした。