里吉が彼女の紹介で留学することになった時に、どうせなら二週間思いきり世話になって来ればいいと、今回の“いたずら”を提案された。
それで、理事長からの手紙には、くれぐれも里吉をよろしくと、ずいぶん大袈裟に書かれていたわけだ。

ここまでは里吉も関知していたことだったが、ボディーガードの存在は、里吉もこちらへ来てはじめて知ったことだった。
生徒会役員たちも、理事長のいうことを疑いもしなかったため、てっきり彼女がボディーガードを付けてくれたのだと思っていた。

だが、実は彼らは、日本にあるBTS本社の社員だったのだ。
里吉の様子を見て、イギリスにいる父親に随時報告するのが、彼らの役目だった。
ボディーガードでもなんでもない、ただのメッセンジャーだったわけだ。


「どうりで動き悪いと思ったよ……」
「てか普通に考えて六人もいらないしね」
「そこが理事長なりのジョークにゃのかと思ってたにょろ」


『あの理事長のことだからきっとなにかある』と、深読みさせることそのものが、その『なにか』だったのだ。
里吉がさらなるいたずらを仕掛けることまで予測していたのかどうかはわからないが、なんだかすっかり、理事長の手のひらの上で転がされていたような気がする。

すっかり疲れてしまった彼らに、榑松がからりと笑った。


「さ、夕食にしやしょう! せっかくだから皆さんも食べてっておくんなせ」


食べ盛りがこんなにいちゃあ料理長も大変、と、八重歯を見せる。

そんな榑松に、里吉は素直にはにかんだ。
なんだかんだで、榑松や紅や恋宵には、この数日の間に心を開いて楽しくやっているようである。
初対面のあの態度は、なんだったのだろうか。
つんでれなんじゃないの、と、聖は言った。