***
ざ、ざざ、と、ノイズ。
小さなスピーカーから聞こえるのは、くぐもった音と、聞き取り辛い囁く声だ。
「どう?」
『入ってすぐの階段脇に一人……あとは一階にはいないと思います。顔はわかりません』
弁当や水のペットボトルが入った段ボール箱を開けて中を見せると、案外簡単に通してもらえたようだ。
しばらくは一言も発しなかったが、先導する犯人と距離が開いたのか、中の様子を報告する声が聞こえてきた。
ワイヤレスの小さなイヤホンを髪で隠して、服の中を通して襟元に着けた小さなマイクに向かって話しているのだ。
それから少しの間、二人が通った道順、見張りの位置や人数を報告する小声と、断続的なノイズが続いた。
「結構人数少ないみたいだな……まさか、本当に四人しかいないなんてことはないだろうな」
「サトちゃんどうしてんのかな……」
「サトちゃんがいるところまでは通してもらえないかもにょろ」
「せめて……、顔を見られなければいいんだが」
なにか口に出さずにはいられない不安の中、夏生はただ黙っていた。
直姫もなんとなく、声を出すタイミングを見つけられないでいる。
それよりも気になっていることがあって、ずっと気を散らされているのだ。
声でしか入ってこない情報に、できる限り意識を集中させていた。
不意に、電話口からの音が騒がしくなった。
息が詰まるような緊張感が走る。
「……な、なに、?」
「これ……、犯人たちの声、ですか?」
「早口で聞き取りづらいな」
その時だった。
ざわざわと聞こえる騒音の中、微かに届いた声は、覚えのあるものだった。
甲高く響くことも、地を這うように唸りもしない、不思議と澄んだ中性的な声。
『……、……のく、』
『え……!? な……んで』
固唾を呑んで聞き入った、その次の瞬間には、ぶつりと音を立てて通信は途絶えていた。