* *
きしりと音を立てて、扉が軋む。
砂や排気ガスで曇ったガラスを誰も掃除しないために、中も薄ぼんやりとしか見えない。
開けると、あまりに綿埃がもうもうと舞い上がったので、もしかして誘拐犯たちはここにはいないのか、と思ってしまった。
だが真っ白になったリノリウムの廊下に、確かに真新しい足跡がついている。
何度も出入りしているようで、何人の足跡かはわからない。
通話状態にした携帯電話は、とりあえずの外との通信手段だ。
これが切れたら“合図”と取る。
それをポケットに入れて、二人は帽子を深く被った。
真琴と准乃介、紅は、誘拐犯とは一切接触していないし、すれ違ったりもしていないはずだ。
だがそれに関係なく、今顔を見られてしまえば、真琴と准乃介の正体は簡単にバレてしまう。
もしかしたら数人がかりで取り押さえられて、人質が増えるなんてことにもなりかねない。
紅は明らかにそれを懸念していたが、夏生はまったく気にしていないようだった。
* *