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静寂に包まれる。
そんな気がしているのは彼らだけで、きっと今日だっていつもと何ら変わりのない生活をしている人々にとっては、普段通りの自然な騒音に満ちているのだろう。
だが、そんな錯覚をするほど、彼らは緊張していた。
紅のパソコンに送られてきたメールには、他言無用の文字も要求の他には、『1930、○○ビル』とだけ書かれていた。
七時半にその場所に来い、ということなのだろう。
レンタカーを借りて向かってみると、そこは、小さな廃ビルだった。
過去には何に使われていたのか、寂れた裏通りの隅に、肩身が狭そうに建っている。
通りを歩く者は一人も、猫やカラスさえも見当たらない。
よくこんな場所を見つけたものだと感心したが、人目につきたくないのは、無駄に目立つ人相ばかり揃っているこちらだって同じである。
「どうすんの、とりあえず弁当と車だけ持ってきたけど……」
「夏生先輩、一体どういうつもりなんですか?」
落ち着きのない聖と真琴の焦りも、夏生は一瞥しただけで無視した。
車は最低四人乗り、という指定があったので、レンタカーショップにあった普通車の中で一番大きな車種を選んだ。
七人がまとめて行動するためでもあるが、車高が高いため、通行人が中を覗きにくいという利点もある。
また、唯一自動車免許を持っている准乃介が、大きい車のほうが運転し慣れている、ということもあった。
七時半まで、あと六分。
今は、ビルから少し離れたところに停めた車の中で、建物の様子を窺っているところだった。