「え、なに言ってんの……?」
「レンタカーにする? たぶん無傷で返せると思うけど」
「おい、夏生?」
「准乃介先輩の名前で借りてください、この中で免許持ってるの先輩だけなんで。あ、身代金は保留で」


誰の疑問もまったく解消せずに、夏生は一人話し続けていた。
しばらく呆気にとられていたが、ようやく我に返って、聖の声も徐々に低くなっていく。


「お前、わかってんのかよ、人の命が賭かってんだぞ」
「うっさいな、わかってるよ」
「わかってねぇだろ! ちゃんと真面目に考えてんのかよ、保留ってなんだよ!?」
「五千万なんて、高校生が簡単に用意できる額じゃない。向こうはそう思ってるはずでしょ」
「そんなの……だから、向こうは知ってるかもしれねぇんだろ、俺らのこと」
「そんなのありえない」


そう言い切って、夏生は続けた。


「柏木記念総合病院、石蕗流、東雲財閥、佐野化工。この名前を知ってて要求金額がたったの五千万円なら、ただの馬鹿かガキでしょ。ほぼ間違いなく、知らずにやってる」
「だからって!」
「俺が何も考えてないとでも思ってんの?」


限りなく冷めた、常に余裕と色気を仄めかす、切れ長の目。
いつもとほとんど変わりなく見える。
真正面から対峙した聖の勢いが、するすると熱を下げていく。

二人の様子をはらはらしながら見ていた彼らの脳裏には、シンプルな疑問符が浮かんでいた。


「……どういうことか説明してくれ、夏生」


紅が、困ったような訝しげな表情を浮かべて、尋ねる。
だが不敵な彼は、口許だけで小さく笑って、答えた。


「あとで。確証ないし、まだ教えません」


そう言ったきり、本当に口を閉ざしてしまったのだった。