ずっと燻るように感じていた違和感が、不意に、とんでもなく大きくなった。
炎を上げているのに熱くないような、そんなもどかしさがあって、落ち着け、と自分に言い聞かせる。
一度目を閉じて、開いた時にはもう、氷解していた。
それがにわかには信じられなくて、でもそうとしか考えられなくて、視線がうろつく。
それが出会ったのは、すべてを見透かしているような、ふてぶてしい冷たい目だった。
いつもならば、しらけた色を携帯電話や聖に向けているか、アイマスクの下に隠しているか、もしくは、爽やかにわざとらしい笑みを浮かべているか、の。
あ ん た も ?
二人以外、ああだこうだと言い合っていた彼らには、きっと聞こえはしなかった。
空気と一緒に直姫にだけ届くよう、吐き出された言葉は。
その言葉の諸々を直姫が理解するのと、それによってその表情にわずかに、ほんの微かに驚きの色が混じるのと、そんな直姫にしては珍しい変化を起こさせた本人が突然立ち上がったのとは、ほぼ同時だった。
「え、……夏生?」
一体急にどうしたんだ、という意味を込めて、聖が声を上げる。
夏生はそれに対しては何も答えずに、ただ壁に掛けられた時計に目を向けた。
時刻は六時三十二分。
犯人が指定してきた時刻まで、残り一時間を切っている。
それを確認したように、夏生はようやくまともに口を開いた。
「車の手配、間に合わなくなりますよ。行きましょうか」
「は……?」
誰かが戸惑ったように言う。
恋宵は口を開けていたし、真琴は先輩たちの顔を見比べて、困ったように眉尻を下げていた。
耳を疑うのも、当然のことだ。
なにしろ、細心の注意を払って慎重に扱わなければならないはずの問題がまだ、何一つ解決していない。