はじめからBTS子息の誘拐を目的としていたのなら、身代金の要求は当然、父親のもとに行くはずだ。
慣れない日本の学校で面倒を見る一介の高校生たちに要求するなんてらどう考えてもおかしい。
そうするのは、どこか――例えば徒歩だった学校の行き帰りで、例えばあの遊園地で、紅たちが里吉と一緒にいるのを目撃されていたからに違いない。
紅や夏生たちの素性を知ったうえでの、この要求であるはずだ。
そうでなければ、ただの高校生に身代金が用意できるなんて、普通は考えないからだ。
だが、もしそうだとすると、要求額が安すぎる。
石蕗や東雲に他人の子の身代金を払う義理なんてないのは当然だが、要求がその娘や息子に行く場合なら、話は変わってくる。
「友達を助けるのに、五千万しか用意できないと思われてんのかね、東雲の跡取りは」
聖の言葉に、夏生は肩を竦めた。
「人質としての価値がない人相手に身代金なんて要求するはずもないから……甘く見られているんだろうな、これは」
「む、バカにしてるにょろ」
「イギリスのお父さんにも別に要求してるのかもしれません」
「それにしても、でしょ。せっかく誘拐したんだから、取れるだけ取ればいいのに」
「金が目的じゃないってことか……」