それは、麗華嬢の、こんなごく自然な一言だった。


「配役を決めるなら、ここに藤井先生が用意してくださったくじがありましてよ」


藤井は年代は被らないが、居吹の大学の先輩らしい。
そんな繋がりで交流はあるのか、居吹のことはよく知っているようだ。

自分のクラスを一時間でも彼に託すのが不安だったのだろう。
腹痛に苦しみながらも、事前にできる準備はなんとか済ませてあるようだった。


「これを今から私が引かせていただきます。当たった方は光栄にも佐野くんのお相手、シンデレラ役に大抜擢ですわ。もちろん、誰がなっても恨みっこなしですわよ?」


麗華のよく通る声が、少女たちに、戦いの火蓋が切って落とされたことを知らせる。

この勝負の全ては、彼女のくじを引く手に握られているのだ。
白魚のようなその指に、自分の名前の書いた紙を摘まませる術は、運以外になにもない。

知らず知らずのうちに、緊張感が高まっていく。


(なんか真琴が主役みたいになってるけど、この話の主人公ってシンデレラじゃ……)


直姫は思ったが、この空気に水を差す勇気など、あるはずもない。