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「あそこ、悠綺高校が見えますわ! 石蕗邸は……あの山の影でしょうか」


大きなガラス窓に張り付いて、里吉は歓声を上げる。

普段から夏生と接する時だけはわりときゃぴきゃぴしていたが、ここまでではないだろう。
小さな子供のように景色を眺める里吉に、夏生は目を細めた。


「ねえ」
「はいっ?」


上記した頬で振り向く里吉に、夏生は眉を僅かに動かす。


「これを降りたら帰るからね」
「えー……そんな、早すぎますわ」
「自分の立場分かってんの。こんな目立つとこに来て」
「目立ってるのは夏生さまじゃありませんこと?」


唇を尖らせた里吉を軽く睨みつける。

そんなことは夏生にもわかっているのだ。
だからこそ、さっさと帰りたいというのに。

外見のせいで目を引いているだけなら問題ないが、スタッフや客の中に、二人の身分を知っている人間がいないとは言い切れない。


「身の危険があるなら、明るい屋外で、人目はむしろ多いほうがいいと言われましたの。ほら、水族館なんかじゃ、いかにも危ないでしょう?」
「それは……そうかもしれない、けど」


思いの外冷静に言い返してくる里吉に、夏生は違和感を覚えた。
今がはじめてというわけではない、ずっと薄々感じていたものだ。

好きになった人に会うためにわざわざイギリスからやってきた、なんて言うわりに、夏生への直接的なアプローチはない。
というより、人目のないところで――いや、“生徒会役員の目のないところで”のアプローチが、ないように思えるのだ。