「きゃあああああぁぁぁあ!!」
突然、甲高い悲鳴が響いた。
判断する時間も惜しんで、台所の引き戸を開く。
紅や榑松は狭いと言っていたが、そこは石蕗家の基準、実のところちょっとしたレストランの厨房並みの広さはある。
物の間を縫うようにして駆け付けた彼らがまず見たのは、呆然と立ち尽くす榑松と直姫の姿だった。
テーブルの上では、大皿にケーキやお菓子が乗っている。
ポットの紅茶はあとは注ぐだけになっていたが、カップが一つ、ソーサーから落ちて、テーブルに転がっていた。
そのテーブルの足元に、恋宵が座り込んで、うつ伏せに倒れた聖の肩を揺すっていた。
「ひじぃ!? ひじぃっ、しっかりしてよぉ……!」
動かない聖の肩や背中にぺたぺたと触れながら、恋宵は涙声で彼の名前を呼び続けていた。
男たちは、素早く視線を巡らす。
いるはずの、いや、いなければならないはずの人物が、どこにもいなかった。
半狂乱になった恋宵が、嗚咽混じりに訴える。
「どおしよ、りよちゃんと、なっ、夏生が」
「なにがあったんです!?」
ボディーガードの一人に肩を掴まれた直姫が、目を見開いたままで、言う。
その視線は、細かく泳いでいた。
「今っ、そこからいきなり入ってきて、二人を……止めに入った聖先輩が……っ!」
呼吸が荒い。
震える指が伸びて、勝手口を指す。
その扉は開け放たれたまま、蝶番が弱いのか、通る風に揺れていた。
男たちは、彼女らの様子や状況で事態を瞬時に把握して、顔色を変えた。
ここ数日で恐らくはじめて見せる、表情の変化である。
「きゅ、救急車……」
榑松が我に返り、エプロンのポケットから携帯電話を取り出す。
それがどうやら、行動の引き金となった。
一人は残る三人を呼びに離れへと走り、二人はすぐさま外へ飛び出して行く。
自分たちが守らなければいけない人物は、今回の来日中、もっとも恐れていた事柄に巻き込まれているのかもしれない。
取り乱した恋宵と直姫と、倒れた聖の近くの赤色が、視界に入っていたせいだろうか。
それとも、切迫して見える状況が、判断能力を奪ったのだろうか。
彼らのうち誰も、里吉のピンチを疑うことはなかった。