「計ったほうがいいと思う…」


田村君は布団から手を出すと体温計を受け取った。


私は椅子に座ると田村君を見た。


そして、ピンクの傘を思い出した。


あの光景を見ると胸が締め付けられる…


何か言いたいのに言えない…


しばらく沈黙が続いた。


ピピピッ…


体温計が鳴る音が聞こえた。


「はい…」


そう言うと私に体温計を見せた。


「38…って…スゴイ熱じゃん!どうして体育なんかしたの…バカじゃん」


田村君はビックリしていた。


私はタオルを出すと、水に浸してしぼり、額にあてた。


「ゴメン…」

田村君が静かにそう言った。


「ぶっ…」


なぜか私は笑ってしまった。


「な…なんで笑うんだよ…」


「だって…前に私が田村君のボールが顔面に当たって保健室に行ったとき、田村君がいたでしょ?その時の態度と全然違うから…」


「うるせー…」


そう言うと横を向いた。


「あのさ…なんで風邪ひいたの」


「だから、それは岡田がペチャクチャ言ってただろ」


「それは本当のことかもしれない…でも…」


私は少し間をおいてから言った。


「ピンクの…ピンクの傘の女の子と…一緒に帰ってたでしょ?」


田村君は私を見た。


「お前…見てたのか…?」


私はコクリと頷いた。


それを見ると田村君は、


「マジかよ…お前にだけは見られたくなかった…」


どういうこと…


私は怖くなった…


「あれさぁ……」


私はゴクリと唾をのんだ…


「姉ちゃんなんだよね…」


「…………」


田村君は顔を真っ赤にして言った。


「姉ちゃん…?」


私はどうしていいのか分からなかった…


「うん…オレ…3年に姉ちゃんいるんだよ。で、傘忘れたから走って帰ろうと思ったら、姉ちゃんが入れって言うから…」


「なんで…岡田君に本当のかと言わなかったの?」


「言えるわけ…ないだろ…」


田村君は顔を真っ赤にしながら言った。