すると、猛スピードで走ってくる音がした。


「おいっ」


田村君の声で私は立ち止まった。


「なに…」


「バッグ…」


そう言うと私が投げたバッグを渡した。


「あぁ…」


私は無造作に受け取った。


しばらく沈黙があった後、田村君が口を開いた。



「ゴメン…」


「……」


「もういいとか言って…」


「…」


外では野球部やサッカー部が練習をしている声が聞こえた。


校舎の中からは吹奏楽部の演奏が聞こえた。


私はその時落ち着けた。


それが吹奏楽部のおかげか、田村君のゴメンの一言かは分からない…


「オレあの時…ショックだった…なんか自分の思い通りにいかない感覚がして…」


「……うん…」


「だから…それで深田が、すごく嫌な思いをしたなら謝りたい…」



「もう、いい…」


私の声のトーンは低かった。


「もういい…って?」


田村君が恐る恐る聞いてきた。


「もう今日は疲れた…」


なんで自分がこんなことで感情を剥き出しにしているのか分からない…



「お願い…」


田村君がか細い声で言った。


私は驚いて田村君を見た。


「なによ…田村…」


また強気になってしまった…


「呼び捨てでもいいから…もう知らないとか言わないでくれないか?」


田村君の目は深い悲しみを見るかのような瞳だった。



「どうしたの…」



私はなんだか、田村君が深い悲しみを背負っている気がした…



「ゴメンね…」


私はそう言うと、気付かないうちに田村君の手を握っていた。


それを田村君は強く握り返した…