ケーキを持っているだけに走るわけにもいかずに、早足で辿りついた椋ちゃんの部屋。
鍵を開けて中に入ると、リビングから椋ちゃんが出てきて玄関まで来てくれた。
まだネクタイをしたままなところを見ると、帰ってきたばかりみたいだ。
「椋ちゃん、これ、先生が椋ちゃんと食べろってくれた」
差し出すと、椋ちゃんは少し顔をしかめてからそれを受け取って中を確認する。
そして安心したような顔をしてから、中から一枚の紙切れを取り出した。
「なに? 嬉しそうだけど」
「ん? いや、清水さんが、来週の企画会議、よろしくお願いしますって」
「……本当に素直じゃないなぁ、先生は」
やっぱり一度からかってくればよかったと思いながら笑うと、椋ちゃんが微笑む。
「でも、やっと安心した。俺のせいでもしもこの企画に何かあったらどうしようかと思ってたから」
「だったら、ひとりで先生のところ乗り込んだりしないで大人しく我慢してた方がよかったんじゃない?」