「そうだ! パパ、あたし料理教室やめる」
「どうした、いきなり。
高度すぎたか?」
「違うよ。あいつ、あたしに手出してきたんだからね!
なんかムカつくから、とか言って、急に押し倒してきて……ほら! これ!
ありえないでしょ?!」


ブラウスの襟を引っ張って、キスマークを見せつける。
パパは、ぎょっとした顔をしてから、疑うようにあたしを見た。


「……それ、葉山くんじゃないのか?」
「ち、違うよ! 先生にやられたの!」


片方は椋ちゃんがつけただけに、歯切れが悪くなる。

見えない場所にある、たくさんの椋ちゃんの跡。
それが見透かされてるみたいに思えて、なんとなく後ろめたくなりながら訴える。


「とにかく、付き合ってもいないのに無理やり押し倒してこんなのつけるとか、許されることじゃないでしょ!
それに、椋ちゃんの前でわざわざ『俺がつけた』とか言うし!
だからやめる」