あたしが本当に飛び込もうとしてると思ったのか、違うって言ったのに、椋ちゃんの腕は緩まなかった。
そのあまりの強さに、正直戸惑う。
「っていうか……ダメじゃん。さっきサヨナラしたのに、心配するとか……。
あたしの事なんか、気にしないでいいから。
椋ちゃんはもう、あたしに振り回される事なく自由に……」
「――無理なんだよ」
これ以上ないってくらい、自分の気持ちを抑えつけて、椋ちゃんの腕を解こうとしたのに。
それに気付いた椋ちゃんが、また腕に力を込める。
それはちょっと痛いくらいだった。
椋ちゃんと密着してる背中が、熱い。
「俺が咲良の家に居候する事になった時から……あの頃からずっと。
俺の生活の中心には咲良がいた。
咲良の家を出た今だって、ずっと俺の中に咲良がいる。
それを、どうやって忘れればいいんだよ」