どれほどマンションの駐車場に閉じこもっていたのか、俺達が駐車場を出る頃には星々が瞬いていた。
 
もうすっかり日が暮れてしまったようだ。
今日は新月なのかお月さんの姿は見受けられない。

街明かりのせいで、世辞でも星明りが綺麗とは言えない。

ぼんやり夜空を仰いでいると、肩を並べているヨウがそろそろ戻るかと独り言を漏らす。

響子さんの説教から逃げるように外へと飛び出してしまった、今頃彼女はおかんむりだろうとヨウは微苦笑を浮かべる。


その証拠にヨウの携帯には着信が数件入っていた。

マナーモードにしていたから気付かなかったというけれど、それは嘘だ。


ヨウはしっかりと彼女の着信に気付いている。
何度もバイブ音が鳴っているのを俺も耳にしていたし。
 
「俺は戻るけど」

テメェはどうする? ヨウの問い掛けに俺は肩を竦めた。


「帰らなきゃ」


空を仰いだまま答えを返すとヨウがそうかと苦笑いのまま視線を逸らす。

病み上がりだしな、理解を示してくれる舎兄に俺は視線を戻す。


「母さんに叱られそうだな」
 

こんな時間までほっつき回っていることに、きっと激怒している頃だろう。

お説教は覚悟しておかないとな。

目を伏せ、軽く口角を持ち上げるとブレザーのポケットに手を突っ込んで足先を来た道に向けて歩み始めた。


帰路とは反対の道を進む俺にヨウが驚きを含む声を上げる。
 

足を止めた俺は振り返り、「帰らなきゃ」やっとお前の隣に帰れたんだ、今度はチームに帰らないと…、と目尻を下げる。

破顔するヨウは速足で俺の隣に並び、足並みを揃えてきた。


ゆっくりとした歩調でアパートに戻る俺とヨウの間に会話はない。

けど決して居心地が悪いとは思わなかった。


信頼を寄せている奴ほど会話が弾まなくても居心地がいいと思えるもんだ。


不意に俺は話題を切り出す。
メアド変えたか? と。

メールが通じなくて困ったんだけど、苦々しく笑うとヨウが後で教えると綻んだ。

曰く、直接教える予定だったらしい。

里見達の件で携帯には十二分に注意を払っているとか。
 

「そっか。なんか迷惑掛けちまってごめんな」

「テメェが謝ることじゃねえって。里見って野郎が狡過ぎる手を使うから予防線を張ってるんだよ。なーんで真正面から喧嘩を仕掛けてこねぇのか、俺には理解ができん」