今は踏ん切りがつかないんだ、踏ん切りが。

本音を相手に伝えると、「いいぜ」とことん付き合うから、とヨウは力なく綻ぶ。

だって俺は舎弟を迎えに来たんだ、舎弟が此処にいるっていうなら留まるしかないじゃないか。


約束しただろ? 迎えに行くって。

おどける舎兄に俺は同じ表情を返した。


相手にごめんと伝えたかった。
ありがとうとも伝えたかった。

けど今のヨウはどっちも受け取ってくれないだろう。

醸し出してくる空気が物語っている。

じゃあ別の言葉を贈ろう。今度は形作って相手に伝えるよ。


「なあ、ヨウ。俺、お前の舎弟で良かったよ。周囲から不釣合いだって言われても、俺はお前の舎弟で良かった」

「不釣合い?」


馬鹿言え、名コンビじゃねえか。

誰も彼もが不良と地味で不釣合いなんざ言うけど、俺達は最高の相棒だ。


ヨウは即答する。
 

「俺は俺の選択肢を間違っているなんざ思ってねぇ。俺の舎弟はあの日からケイしかいねぇって思ってる」


真剣な眼で吐露してくるヨウに、「俺もだよ」俺はそっと目尻を下げた。

お前と舎兄弟をしている日々を、その選択肢を決して間違っているとは思わない。

挫折することはいっぱいだし、苦労することも多々だけど後悔だけは絶対にしない。この先に何があっても。


「体はヘーキか?」

「いや、正直だるい。今暫くは喧嘩に出られなさそう」

「バッカ。ンなこたぁ、こっちに任せておきゃいいんだよ」
 

「今日学校行ったのか?」ヨウは表情を崩して世間話を切り出してくる。「うん」行ったよ、皆がいなくて驚いたと肩を竦めた。


だったら自分も行けばよかったとヨウは吐息をつき、頭の後ろで腕を組んだ。

ちょっくら個別で喧嘩していたんだと話してくれる。

おかげで響子に叱られたと不貞腐れる兄貴。


どういう意味だと首を傾げると、片っ端から知名度を欲している不良をシメていたのだとヨウは鼻を鳴らす。


ちなみに仇討ちは少し前に終わっているらしく、ここ数日は知名度を欲している不良をシメ上げていた。

ヨウの説明に俺はますます首を傾げる。それがどうして響子さんに叱られるんだ?


するとヨウはちょっち決まり悪そうに、「異色の舎兄弟が」怒ったらどうなるか知らしめてきたのだとぼそり。

「はい?」目を点にする俺に、分かりやすく噛み砕いて説明してくれるヨウ曰く、里見上総等は知名度を欲している不良を利用していることが判明した。

だったら利用される前に脅しておこうと判断したヨウは、ひとりで夜な夜な知名度に飢えた不良を相手取っていたとか。

それで負った怪我が頬の痣らしい。