堪能する口付けもほどほどに俺は両肘を彼女の顔横に置いて、

「忘れていたらこうなるよ」

さっきの問い掛けの返事をする。

重力に従って垂れ下がる俺の髪に手を伸ばすココロは、「じゃあ忘れていたいです」挑発的な言葉を掛けてきた。


また駆け引きだろうか。


苦笑する俺は勘弁してくれと彼女に全体重を掛け、首筋に顔を埋める。

「もっと欲しくなるんだけど」

欲にまみれた気持ちを受け止めてくれるココロは、頭を抱いて微笑を零した。



「ケイさんって恋愛に淡白だと思っていたんですけど、違ったみたいですね。―――…私と一緒です」

 

腕の強さを感じながら、俺は彼女のぬくもりに瞼を閉じる。

「煽るなって」

歯止めが利かなくなるから、冗談めかしに返した。

今の俺は荒川の舎弟じゃない。
村井の舎兄でもない。
チームの足を務めているジミニャーノ不良でもない。

若松の彼氏なんだ。


ココロの前じゃ肩書きも何も畜生もない。


ふと気付く。

俺はココロと過ごす時間が少ないことに。
少ないがゆえに、こうして求める行為が濃厚になってしまうことに。


嗚呼、俺も男なんだって思った。
 

「やっばいな。ハジメと弥生に刺激されたせいで、なんか暴走しちまってる俺がいる」

「私は先に進んでいる二人をちょっと羨ましく思っていました。ケイさん…、すぐどこかに行っちゃうんですもん。そのおかげでなかなか先に進まないですし。それに嫉妬だって…、ケイさん、お願いです。今は、今だけは」


独り占めさせて下さい。

最高の殺し文句だと思った。前持って準備していた言葉とは思えない。

ということは天然の殺し文句か? オッソロシイな、おい。


「いいよ」


時間が許す限り、傍にいてあげる。
その代わり俺も独り占めな。

彼女の隣に寝転んで俺は笑みを浮かべた。笑みを返すココロは、持ち前の黒髪を耳に掛けて俺の方に擦り寄ってきた。

だから腕に閉じ込めてやることにする。


ここでガオーッするほど、俺もまだ落ちちゃいないと信じたい。

キスはがっついたけど、うん、それ以上はな。まだな。無理!


「なあ、この際だから聞くけど…、ココロ、俺とディープキスしたい?」


「ふぇ?」腕の中にいるココロが頓狂な声を出した。
で、「ちょ、」ちょっと待ってくださいね、あたふたと身を捩って上体を起こす。


「あ、あぁあ飴玉とか必要ですよね! や、やる前に飴玉っ、舐めて…、い、苺さんでいいでしょうか!」


気合の入った下準備じゃあーりませんか。

いやでも待って待って待って!
まだするとは言ってないでしょーよ!

俺だって飴ちゃん舐めなきゃいけなくなるし!