そーかいそーかい、俺にはちっとも嬉しくない愛情表現だったよ。

今度からはもうちっと嬉しい愛情表現をお頼み申したいや。
 

「俺さ、嫉妬したんだけど」

 
彼女に素直な気持ちを告げる。

面食らうココロに嫉妬したんだけど、繰り返し当時の心情を告げて駆け引きの勝者に一笑した。

まんまと嫉妬させられた敗者は嫉妬したことを素直に認め、相手に手を伸ばす。

頬を包んで引き寄せると彼女は度肝を抜いたように体を硬直させ、頬を紅く染めながらこっちを見つめてきた。


顔を近付ければぎゅっと相手の瞼が閉じてしまう。
 

寸止めして彼女の顔を見つめていると、やってこない衝撃に疑問を抱いたのか恐る恐る瞼が持ち上がった。

黒く透き通った硝子玉と視線がかち合う。

それを合図に唇を塞いでやった。


真ん丸に目を見開くココロの体が微動する。

そっと距離を戻すと、見る見る顔を夕日色に染めてフェイントじゃないかと目で非難してきた。


「ひ、酷いです」


赤面する姿を見られたくないのか、顔を振って俺の手から逃げようとするんだけど先に仕掛けてきたのはココロ。ココロなんだよ。
 


もっと体を密着するために、俺は細い腕を引いて華奢な体躯を抱きしめた。
 
 

ひゅっ、声なき声が鼓膜を振動する。硬直したままの体、緊張で強張っているようだ。腕越しに伝わってくる。

艶っとした髪を手櫛で梳くと、見上げてくる彼女と瞳がぶつかった。

意思を宿した硝子玉が余計気持ちを昂ぶらせる。

「ココロは忘れているよ」

俺が男だということを、目を細めて相手に物申す。弾かれたようにココロが俺の後頭部に両手を回して、自分側に引いた。

重ねてくる唇と共に、

「忘れていたらどうなるんですか?」

吐息を震わせる。
 

どちらが先に体勢を崩したかは定かじゃない。
 

俺は相手を敷いて彼女を求めたし、彼女は上に覆い被さる俺を求めた。

静寂さえ今の俺達には無意味な気がした。


本能的に触れたいと思うのは、俺が盛っているせいだろうか。


子供の俺達だから弥生やハジメのようなキスこそできなかったけれど、それに勝るような口付けを交し合う。

付き合いたて当初じゃ、決してできなかった俺達なりの激しい行為。


柔らかな薄唇も頬の紅潮も、求めてくる手も、ただ欲しいと思った。