はにかむココロに、俺も一笑してピーマンを放り込む。

これならイケるや。手間隙掛かっただろうにココロが一生懸命料理してくれたことが嬉しくって、俺はドーナツを食ったことも忘れてついおかわりなんてものをしてしまう。

鶏とピーマンの生姜煮、肉じゃが、どっちもおかわりしてしまったもんだから図々しいかなぁっとか思ったんだけど、ココロはそう思わなかったらしい。

沢山食べてもらえると作った甲斐があると微笑まれた。

俺も手間隙かけてくれたことがすっごく嬉しくて綺麗に完食。


夕飯の時間は難なくココロと会話できた。



夕飯後、俺はココロと一緒に食器を片付けた。

夕飯をご馳走になったせめてのお礼だ。

この間も俺達は普通に会話を交わせたんだけど、それが終わってココロの部屋にお邪魔させてもらう頃には会話が自然と消えてしまった。

なんでだろう。
此処まで来るときのような、ぎこちない空気が漂い始めたんだ。
 

一度は消せた筈の空気が再び到来、話題は沢山ある筈なのに俺達は会話なく部屋で時間を過ごす。


取り敢えず会話は振ってくれるし、今もココロが授業で習っている点を教えてくれるんだけど話し手も聞き手も、ただただぎこちない。

夕飯もご馳走になったんだし、片付けも済ませた。

時間も時間だし、俺がお暇すればいい話なんだけど、此処でそれをしてしまうと逃げる気がして。
 

そして帰ればきっとココロと距離が開く。
そんな気がして。


おかしいよな、付き合い始めたってのに、身近にいるってのに、付き合う前より距離が開くような錯覚に陥るんだ。
 

俺はミニテーブルに頬杖をついて、必死に話題を作ってくれるココロを見つめた。見つめ続けた。

視線を受信したココロは困ったように語りをやめ、眉をハの字に下げてなんだと言わんばかりに視線を返してくる。

いつも視線で訴えてくる彼女の真似っこをする俺は、なんでしょうと言わんばかりに口角を微かに持ち上げた。

「ケイさん?」

名前を呼ばれて、俺はようやく唇を動かす。デートはどうだった、と。

持っていた教科書を閉じて、ココロはちょっと間を置いてあんまりデートという気分じゃなかったと返してくる。

楽しくなかったわけじゃないのだけれど、ハジメと弥生に当てられた気分だったとか。
 

同感だと頷く俺は、「もうない?」更なる感想を求める。言いたいことがよく分からない、ココロは首を傾げた。

「だから」

彼氏を嫉妬させるなんてテクニカルな駆け引きをしておいて、他に感想はないのか、俺は彼女に向ける笑みを深める。

ちょっち気まずそうに視線を逸らすココロは、嫉妬するケイさん可愛かったですとご大層な感想をくれた。