小さく溜息をついて、俺は携帯を閉じる。

ココロが此処まで期待しているかどうかは分からない。

でも何かに期待していることは確か。
それに応えたい俺がいるのも確か。
んでもって俺自身が望んでいるのも確か。
 

ふーっと息をつき俺はテレビを観る振りをしつつ物思いに耽る。


ボケッとしていたせいか、ココロが夕飯を作って運んでくれる時間がやけに短く思えた。


運ぶくらい俺でもできたから、声を掛けてくれば良かったのに。

相手に物申すんだけど、ココロは自分がしたいのだと笑い、二人分の食事を並べ始める。


「あ。肉じゃが」


大好物に俺はつい声を上げてしまった。

ふふっと笑声を漏らすココロは、「ケイさんはジャガイモ料理がお好きですもんね」と頬を崩す。


そうなんだよ。

ジャガイモって美味くね?
芋の中でいっちゃん美味いと思うぞ。

コロッケも大好きだし、ポテトサラダも好きだし、じゃがバターとか最高じゃんかよ。
 

「ケイさん。ピーマンもちゃーんと食べてくださいね」


う゛、俺は声を詰まらせる。

ココロが俺の前に置いてきたのは、鶏とピーマンの生姜煮。俺の苦手な野菜っ…、ピーマンは俺の敵!

いや食べる、食べるけどさ!
まさかピーマンが出てくるとは。

ノッケから四天王と戦う気分だな。

「ピーマンか」睨めっこする俺に、「苦手克服です」頑張りましょうとココロが破顔してくる。

その笑み、ちょっち今の俺には堪えるかも。

苦笑いを浮かべつつ、俺はお箸を取って頂きます。
早速ピーマンの生姜煮にチャレンジした。

大嫌いなピーマンを一口放ってみる。


嗚呼、口内いっぱいに広がるこの独特な苦味が…、苦味…、あれ、思ったほど苦くないような。てか全然苦くない。


「ん? ピーマン?」


首を傾げる俺に、ココロは大成功だとばかりに手を叩いた。
 

「ピーマンって皮が苦いんです。だから皮さえ剥いてしまえば、苦味は消えてしまうんですよ。
些少は風味が残ると思いますけど、生姜で匂いをある程度消していますし、食べられないことはないと思います」


「ううん、普通にイケるよ。俺、ピーマンの苦味がどうしても駄目でさ。食えないことはないんだけど、残すことが多くて…、サンキュ。めっちゃ美味い」