その意味深な台詞だけで、俺は彼女からのお誘いだと気付いてしまう。

遠まわしだけど、切に分かってしまう彼女からのお誘い。

真っ直ぐ見つめてくる彼女の視線を捉え、軽く瞬きした後、俺はチャリから降りて腹減っちゃったと目尻を下げる。

塩辛いものが食べたいと彼女に伝えれば、うんっと頷いてすぐに用意すると綻んだ。


とことん俺は彼女に甘いよな。


邪魔にならないよう、チャリを道端にとめて彼女の家にお邪魔させてもらう。

ココロの祖父母が留守というだけあって家の中は真っ暗。

シンと静まり返っていた。


居間に入ると、ココロは順に電気、テレビを点けて部屋を賑やかにさせる。

適当に座っておいて欲しい。
通学鞄を座椅子に置きながら彼女は俺にそう指示した。
 
「作っている間、テレビでも観ていてください。どうぞ寛いでくださいね」

一笑する彼女は、さあ頑張るぞと制服のまま腕まくりして台所に足を向けてしまう。
 

「手伝おうか?」

「いいえ大丈夫です」


俺の心配りは入らないようなので、取り敢えず言われたとおり、テレビのチャンネルに手を伸ばして番組を替えてみたり。

だけど気が落ち着かなくて、俺は携帯にその気を促した。母さんに夕飯と帰宅時間のメール。

次いでインターネットを開き、こそこそと検索欄に単語を入力。


検索数が二千件と表記される中、おもむろにリンクを選んでHPに飛ぶ。


(えーっと…、まずはリラックスすることが大事です。テクを気にするより、相手の気持ちを尊重して最高のやり方を見つけましょう。
それがよく分からんから、勉強してるんでしょーが! 次だ次っ! こう初心者に優しい講座はないのか!)


……って、俺は彼女の家でなあにしてるんだろ。

検索欄に表記された単語(『ディープキス やり方』)に目を落とし、俺は激しく自己嫌悪する。ついでに大きな羞恥心も出てきた。


変に意識して勉強している俺って何様だろうか。

乙だろ乙。
せめて自分の家でこういう下調べはするべきだよな。


恥ずかしい、マージ恥ずかしい。彼女の家で阿呆な検索している自分が、ほんっと恥ずかしい。

俺の中で新たな黒歴史が生まれちまったぞ。