顔を顰めるハジメは、「ちょっと乗せられてね」と溜息を零した。

すっかり彼女に敷かれている哀れな彼氏さまに同情を返しつつ、俺はどうしようと膝に肘を置いて頬杖をつく。

耐え兼ねて逃げてきちまったけど、ココロの奴、少しならず期待していたよな。

まさか襲って欲しいのか?
いやそこまで物騒な気持ちは抱いてないと思うけど。

頭痛がしてきたぞ。本当に。


「ケイはさ。私生活が喧嘩で忙しいから、今の恋愛で満足しているのかもね」


ハジメがやんわり語り部に立った。


「まあ、しょうがないさ。
あの破天荒で喧嘩好きなヨウや、一途で無鉄砲なキヨタの舎兄弟を担っているんだから」


チームの足としてよく働いているし、時にチームの垣根を越えて別のチームに手を貸すこともある。ケイは多忙人だ。


でも女子は喧嘩よりも恋愛を楽しみたい生き物だと僕は思うよ。

だって弥生と喧嘩する殆どが恋愛に関することだし。

悪いとは思っているんだ。
喧嘩や友情を優先する僕がいることは確かなんだしさ。


「現状に満足できないのかもね。もしくは何かに焦っているのか。だからココロも駆け引きなんてテクニカルなことをし始めたのかも。
恋に関する駆け引きは女の武器じゃないかな。

ま、ケイにはケイのペースがあるとは思うから、彼女にディープをしろなんて助言はしないよ。

僕なんて弥生としょっちゅう駆け引きをしているんだから」


恋愛に関してはいつも弥生と水面下で駆け引きをしている。

ある意味男女の戦いだと苦笑するハジメは、喧嘩が男中心の闘いなら恋愛は女中心の闘いなのではないかと意見した。


なるほどね、納得する俺は小さな吐息をついて一思案する。

簡単に言えば俺は今、ココロと恋の駆け引きをしているってわけか。


外部から茶々を入れられているけど、黙然とプレッシャーを掛けられているところとか、期待する眼が飛んでくるところとか、醸し出してくるオーラとか。


あーあ、困ったなもう。


弥生がダブルデートは互いに刺激を与えるものだって言っていたけど、あんまり煽られると頭がパンクしちまうんだけど、俺。