それが含み笑いなのだと気付けなかったのは俺の失態だろう。


「え、あ…え?」


混乱している俺は、ひとまず落ち着こうとストローでグラスの中を掻き回す。

ディープがなんだって?
ドラマで出てくるキスがなんだって?
俺がなにをしそうだって?

ハジメがヘタレ?
そりゃ知っている。


うわぁあおっ、異常なまでに混乱動揺パニックを起こしている俺がいるんだけど。


「嫉妬しやすい負けず嫌いな草食系くんって、実はロールキャベツ男子が多いんだって。ケイもそうでしょ? 白状しちゃいなさいよ」


ニッコーっと笑ってくる弥生に、「いや、その」えーっとなんだろう、誤魔化し笑いを浮かべながら彼女にSOSの視線を向ける。

ギョッと驚いてしまったのはこの直後。

ぬるくなったであろうミルクティーを啜っているココロの醸し出される空気、空気が、なんかめっちゃ乙女チックだったんだよ!

待てココロ。
それってあれか? 期待していますオーラなのか?! あの時感じたプレッシャーって、も、もしかしてこれなのか!


そういえばヨウ、前に言っていたよな。

女って純粋なようで意外と期待する生き物だって。

恋愛に関しちゃ、女の方が気持ちが強いから期待されてもおかしくないって。


………。
 

「ハジメ。ちょっと俺に付き合ってくれないか。うん、ありがとう。ハジメは優しいな。じゃあトイレに行こう。」

 
俺はにこやかに立ち上がって、返事もしていないハジメを無理やり連れ出すと女子達から逃避した。
 
「刺激強すぎたかな」

弥生の能天気な声音やら小さく唸るココロの声音は、パニクっている俺の耳には当然ながら届いていない。

急いで男子便所に逃げ込むと、「なにこの展開!」その場で頭を抱えてしゃがみ込む。

便所に人がいなかったことは幸いだ。


俺はワケが分からないと乱心しながら、すっげぇ追い詰められている気分になっているとハジメに吐露した。

ハジメは同情すると他人事のように肩を竦めてくる。
 

「弥生って恋愛には容赦ないからね。ふかーくツッコんでくるよ」

「ツッコミ過ぎだろ! な、ななんだよディープって。ハジメ、お前本当に…」