「誤解しないでくれよ」

エントランスフロアに赴いただけで、室内に入ったわけじゃないし利用したわけでもない。

デート中、見かけたホテルにお互いカウンターはどうなっているのかちょっち気になって中を覗いただけなのだと、ハジメは頼みもせず言い訳を始めた。
 
その日は私服だったし、ちょっとくらい覗いても良いんじゃないかと思ったらしいんだけど、デートコースでラブホの下見はどうかと俺は思うぞ。引いていいか?


あくまでハジメを白眼視する俺に、「だから!」僕は何もしていない、無実潔白だとハジメは必死に弁解する。

一方、弥生は周囲の客に聞こえない程度の声で、

「タッチパネル式だったんだ」

とこれまた頼みもせずにラブホシステムを教えてくれる。
いらない知識なんですが!
 

「自動チェックイン式でね。部屋をタッチパネルで選ぶんだよ。ハイテクじゃない?」


うわぁあ、凄いね!
自動で部屋が選べちゃんだね!
めっちゃハイテクだね!
 
……と、簡単に思えないんだぜドチクショウ。

ほんっとあんた等何してるんですか。

高校生のくせにそんなところに足を運ぶなんて…、不良の世界は理解しがたい。

ヨウが帆奈美さんと付き合い三日でベッドインしたって気持ちも分からなければ、ハジメと弥生がラブホに好奇心を持った気持ちもイマイチ分からない。

それとも俺が単にお子様なだけだろうか?


二人のデート話を聞いた俺は憮然とドーナツを口に入れて、それを完食。

紙ナプキンを丸め込んだ。

ダブルデートってカンジじゃないよなこれ。


どっちかっていうとカップル達の茶会に近いような。


メロンソーダで喉を潤していると、

「ケイってさ。意外とロールキャベツ男子でしょ」

と弥生が意味深に頬を崩してきた。


ロールキャベツ男子。

ああ、見た目草食でも中身は肉食くんってあれか。

俺がそのロールキャベツだって? なんで?


目をぱちくりさせる俺に、「わりとがっつきそうだから」ストレートに言われてしまう。


おいおい、人を飢えた猛獣のように言うんじゃないよ、お嬢さん。

俺はちゃんと場と段取りを弁えているぞ。現にキスだってちゃんと合意の上でし「ディープもやってそう」


ホワッツ?!

それこそ何を根拠に!


間抜け顔を作る俺に、弥生はわざとらしくヘタレハジメだってしてくれてるんだし、ケイはとっくにしていそうだと細く笑う。