俺の近況報告を笑う健太は、楽しそうな毎日じゃないかとタン塩を取って皿にのせる。

楽しいっていうか苦労する毎日だって。

気兼ねなく健太に愚痴った俺は、「お前は?」どうなんだと注文したビビンバを店員から受け取り長匙を持つ。


一変して表情が曇る健太を俺は見逃さなかった。

何かあったのか、中身をかき混ぜながらさり気なく健太の心に触れてみる。

まさか日賀野と喧嘩したわけじゃないだろう。


あいつと喧嘩したらどうなるか?


答え、俺のような日賀野不良症候群を持つことになります。


健太は俺と違って純粋にあの性悪日賀野を慕っているから、喧嘩しているとかそんなのは想像もつかないんだけど。

「上手くいっていないのか?」

掬ったビビンバを冷ましながら、俺はそれを口に入れて頬張る。

「いや」

上手くいっているよ、チームは楽しいんだと健太は海草サラダに箸を伸ばす。
 

「悩みが無い。そう言うと嘘になるんだけどさ」

「勿体つけてないで話してみろって。俺、べつにお前のチームに告げ口する気はないぞ?」
 

力なく笑う健太は海草を箸で摘み上げて、「見られているんだ」静かに呟く。
 
面食らう俺を余所に健太は徐々に胸の内を明かしてくれる。

最近、誰かに見られている気がするんだと。

いや見られている。
これは確信している。

確信するものを手に入れてしまった。

健太は一抹の恐怖心を俺に曝け出した。

「見られている?」

ストーキングでもされているのか?

健太に詳細を話してくれるよう頼む。


健太はそっと口を開いて教えてくれた。


それは帰路を歩いている時、学校に登校している時、たむろ場を後にしてひとりで街を歩いている時、ふっとした瞬間に感じる悪意の視線。

まるで体中を嘗め回されているような視線を日夜感じている。

一日二日前の話ではない。此処暫くそれが続いているのだと健太は苦々しい面持ちを作り、摘んでいた海草サラダを皿に戻す。

そしてブレザーのポケットから四つ折りにされている紙を俺に差し出した。


匙を置き、俺は紙を受け取ると中身を開く。

目を見開いた。