【あの日あの時あの瞬間の会話】
 

「ケイさぁああああんっ! 何か御用はないっすか! 俺っちをなんでも使って下さい!  ジュースだって買いに行きますし、喧嘩だって一緒に売りに行きますし、なんなら今から一緒にサボれますッス! ケイさぁああん!」

 
「お…、おばか! お前はなんで授業が終わるごとに飛んでくるんだよ! 舎弟になれて嬉しいのは分かった。分かったけどさ! ちょっと落ち着けお前ぇええ! キヨタは俺の舎弟であってパシリじゃないんだからさ!」


「あ、ヨウさん。これから若人の時代っスから、チャリの後ろは俺っちのものっス! だって俺っち、舎弟ですから!」

「な、なッ…なんだと! 譲れるか! あそこはな、むっかしから俺のベストポジションなんだよ! てか、若人の時代だと? 俺が老いてるとでも言いたいのか!」


「だぁああってちっとも譲ってくれないですもんっ! 俺っちもチャリの後ろに乗りたいっス!」


「一昨日きやがれ青二才。あそこは俺の特等席だ。テメェは自分のチャリでも買ってして、運転を伝授して貰えばいいじゃねえか」

「ケイさんのドライビングテクニックは真似できませんもん! ヨウさんのジジイ! 譲って下さいぃいい!」


「んだと?! 表に出やがれこのチビクソガキ! 俺はケイの舎兄だぞバカヤロ! 後ろに乗る権利は舎兄にある。そう、舎兄は偉いんだよ!」

「俺っちの兄貴はケイさんですもん!」


「ケイの舎弟イコール、俺の舎弟でもある! だから俺の言うことは素直に聞け!」

「リーダーのオウボー!」


「ヨウ! キヨタ! 教室で喧嘩するんじゃありません! てか、お前等、ただ単に楽したいだけだろぉおおお! 俺に楽させる気持ちはないのかぁああ!」



……、ちょーっちキヨタのラブモードが重くなり、俺の舎弟と舎兄のチャリの後ろ争奪戦が勃発しているんだよな。


困ったな。
キヨタの方は舎弟になれたことが嬉しくて興奮しているだけだろうから、時間が経てば落ち着くと思うけど、チャリはどう頑張っても無理。

ママチャリみたいに前に一人、後ろに一人とか乗せられるわけないし。

どっちにしろ俺は運転手だから楽できるわけじゃないし。


確かに俺はチームの“足”だと自負しているけど、個々人の交通手段じゃないんだぞ。俺はタクシーか!
 

苦虫を噛み潰すような表情を作る俺に、「ぷははっ」健太は声を上げて笑う。


「舎弟に舎兄、両方の役を同時に買っちまったんだ。そうなるのも無理は無いだろ? 大変だな、圭太も。
荒川の舎弟として名前を挙げたお前が、今度は荒川の名前なしで作り上げた舎兄弟を本物にするなんて。ほんと、どんだけカッコつけたいんだよ」