【田山家長男の部屋にて】
 
 

「うわぁああっ、駄目だ! これも全然上手く書けてねぇ! 字が曲がったっ、俺の心に迷いがあるのか?!
三年間のブランクってここまでだったのかぁあああぁああっ俺の特技オワタ!」


グシャグシャのポーイ。

半紙を丸め込んだ俺は頭を抱えて机に撃沈。

こんな字じゃ出展どころか、級剥奪も夢じゃないんだぜ。

嘆き、愚痴り、ずーんと落ち込む俺は自分の習字の腕前に絶望している真っ最中なう。
 

「上手いぞ…?」


半紙を拾って中身を広げるジャージ姿のシズは、何が不満だと俺の字に首を傾げた。

何が不満だ、と?
そんなの全部に決まってらぁ!

低学年から泣く泣く習字を習い始めて中2まできっちり習ったっていうのに、三年も筆を触らなかったら、こんなショボイ字しか書けなくなっているなんて!

これが出展レベル、だと? ほざけーっ!
 

「嗚呼、三年間。日数に直すと1095日。
筆を触らなくなると、こんな字しか書けなくなるのか…っ、なんてこったい。

俺の習字人生はなんだったんだ。半生は習字に費やしていたのに!」


「ケイ…、それ。昨日も言っていたぞ」


ヤレヤレとシズが肩を竦め、「勿体無い」と零しながら半紙を丸めなおして屑篭に入れた。

勿体無いなんてあるかぁああ!
あんな字を出展品にするなんて、そっちの方が堤さんに申し訳ないわ!

「どうしよう」

引き受けるんじゃなかったと頬杖をつく俺は、菓子を頬張っているシズに助けを求めた。

無茶言うなと言われても、誰かに泣きつきたくなるって。この字の酷さ。


「取り敢えず…、休憩したらどうだ? ゲーム…、しよう」


おいでおいでと手招きしてくるシズ。

どうやら俺の持っている漫画を読みつくして暇しているらしい。


「んー、そうだな。書いても書いても納得できないし。気晴らしするか」


椅子を引いて、俺は習字道具をそのままにシズの隣に腰掛ける。

「手は…汚れていないな」

習字って手が汚れるほど、下手だって言うんだろ?

シズは俺の両手の平に目を落とす。

確かにそう言われているけど、俺はあんま関係ないと思うんだ。


汚れようが汚れまいが、結局はその人の習字のセンス次第だって思うから。

 
「どーしよう。間に合わないぞ、四枚なんて。はぁあ、堤さんと約束なんてするんじゃなかったなぁ
。集中力がなくなってるし…っ、ウワァアア、ニコチン不足な気がっ。家じゃ吸えないしな、煙草」


「ワルになった…な。ケイも」

「最初から俺は上辺真面目ちゃんだよ」