それはこっちの台詞だと睨んでくる川瀬が、ココロの持っていた財布を見て一変。


「俺の財布!」

スられた俺の財布をなんで持ってやがる、まさか、あのスリの仲間だったのか!


捲くし立ててくる川瀬がギッと疑いの眼を飛ばした。

「え、え」

ココロは違うと慌てふためいて、自分も財布を盗られた被害者なのだと弁解。

これは自分の財布と一緒に拾った、と説明はするもののまったく信じていないようだ。


「お前等ならあり得そうだぜ。あんちゃんをあんなに侮辱していたわけだし」


谷が一歩を踏み出し、首を鳴らしてくる。

「だから違うって言ってるだろ!」

ちゃんと話を聴け、モトの反論も耳を貸さない。

不意打ちを狙う如く、踏み出して食って掛かる。


素早くモトは避け、構えを取るキヨタは紙一重に拳を交わして「遅い!」しゃがみ込んで足払い。


「渚!」


川瀬が叫ぶと同時、「うをっつ!」「へっ?」勢いづいた谷は目の前にいたココロと衝突。


「こ、ココロさん!」


しまった、蹴り飛ばすんだったとキヨタは血相を変えた。

大丈夫かとモトとキヨタが駆け寄る。一方、ココロはその場で転倒。

お尻と背中を打ってしまったと痛みに呻き、目を開け、暫し硬直。


なんか上にいる。
なんか自分の上にいる。

なんか自分の上に男がのっかっている。


傍から見れば押し倒されたような図に見えなくもない。

「イテテッ」

人の脛を思い切り蹴りやがって、谷がココロの胸から顔を上げた。


と、同時に、「あ」自分の置かれた状態を把握。

お互いに硬直する二人だったが。



「じ…事故だぞ。べつに俺は「け、ケイさんにも押し倒されたことないのにぃいいい!」
 
 

ココロ、大絶叫。

自分の持っていた財布で勢いのまま相手を殴りバカバカバカバカバカっ、バカ―――ッ!

「どうして!」「アイデ!」

「最初が!」「イテェッて!」


「はじめましての貴方なんですか!」「角は反則だろ!」


それはそれは大変な事になった。


「ケイさんに顔合わせできないじゃないですかぁああ! 馬鹿、馬鹿、バカァアア!」

「ちょ、だから事故っ、イッデェエ!」


財布では飽き足らず、相手を拳で叩き始めたココロは半狂乱で大暴れ。

「こういう展開はケイさんが良かったですぅう!」

もしもしココロさん。
もしかして彼氏さんに押し倒されたい願望でもあるんでしょうか?


デリカシーのない疑問を抱きつつ、


「ココロさん強ぇ」

「さすがは舎弟の彼女」


モトとキヨタはチームメートの発狂に暫し圧倒され、川瀬も雰囲気に口出せず、誰も谷を助けることができなかったという。