どうする。
青年を追うべきか。

躊躇いを抱いていると、第三者の荒呼吸。


背後を一瞥すればやっと追いついたと胸に手を当てるココロがそこにはいた。


運動音痴で持久走がてんで苦手な彼女だが、ド根性で自分達の後を追って来たらしい。

一度は二人の姿を見失って焦ったが、Uターンして道を飛び出した二人を見かけて、どうにか此処まで追って来たとか。


二人とも置いて行くなんて酷いとココロが文句を口にするものの、毒は含まれていない。


「スリの人…、中ですか?」

「そうッス。お財布はまだ取り返せいないんっスよ。すんません」


いいんですよ、大した金額入っていないから。

ココロは首を横に振る。

それより、スリの人はどうして此処に…、彼女は表情を硬くした。


伊達に名の知れた不良のチームに属していない。

彼女自身も、スリの輩が此処に入ったことを訝しげに思っているらしい。


もしや何かの罠ではないか、とココロは喧嘩の勘を表に出す。
 

「けど、財布は取り戻さないとな! うっし、行くぞキヨタ!」

「だなモト! ココロさん、安心して俺っち達に任せて、貴方は此処にって…、ちょ、ココロさん!」


スカートを押さえ、チェーンを跨ぐココロはさっさと扉に向かっている。

振り返り、必死こいて止める二人を不思議そうに見つめる彼女は、

「中に入るんですよね」

と出入り口を指差す。

そりゃそうなのだが…、ココロは此処にいてもらわないと困る。


女性は足手纏いなのだ。

率直に言えば、ご心配なく、とココロ。


「喧嘩になったら、何処かに隠れますから。いつもそうしてますもの」


いや、そうでもなくって。

ゲンナリする後輩二人に、

「ひとりで留守番なんてヤですよ」

ココロは置いて行かれる方が怖いと大主張してきた。


よって先輩を連れて行くしかなく…。


後輩達は静かに肩を落とし、重い足取りでチェーンを跨ぐ。


「さすがはケイさんの彼女」

「肝が据わってらぁ」


舎弟の彼女は強いものだ、各々感想を述べながら仕方がなしに三人でビル内へ。