「あーあ。今日もケイさん、シズさんと直行で家に帰っちゃったよ。折角道のことを聞こうと思ったのに」



二日後のたむろ場にて。

倉庫の四隅で胡坐を掻き、25セント硬貨を投げて遊んでいたキヨタはツマラナイと小さな吐息をつく。

本当ならば、たむろ場で兄分とはしゃぎたいところなのに。


おかげで妙な男から貰った25セント硬貨を投げて遊ぶことが癖になりそうだ。


投げてはキャッチ、投げてはキャッチ、投げてゃキャッチ、指で弾いては手中に収める硬貨をおもむろに天に翳してみる。


表面に彫り込まれている人物画。

ジョージ・ワシントンとかいったっけ。

一体何処のどいつか知らないが、多分アメリカ人なのだろう。


裏にはワシが彫られているが、はてさて25セント硬貨はアメリカではどれほどの価値なのだろうか。
 

はぁ…溜息をつくキヨタの隣で、苛々としながらPSPをしているのは親友のモト。
 
ケモハンに勤しんでいたモトだが、あまりにも親友の溜息の数が多いために疎ましくなったのである。

「キヨタ」

ちと落ち着けよ、ゲームに集中できないだろ、片眉根をつり上げるモトの言葉を右から左に聞き流すキヨタはまた溜息。

どうすればもっと兄分に近付けるだろうか、と悩みを盛大に吐露していた。


「今日、ケイさんが来れなかったのは出展品の創作のためだしなぁ。手伝えることはないだろうし、邪魔するだけだろうし。

ケイさんって才能に有り触れた人だよな。習字はできて、土地勘は長けていて、チャリの腕前はピカイチ。

チームの足で、あのヨウさんの舎弟。はぁ…、雲の上の人だ」


「ヨウさんとケイを比べたら月とすっぽんだけどッ、アイッヅ! ……キ、キヨタっ、今、本気の肘打ちだったろ」


右脇腹を押さえているモトの嘆きを無視し、「それに比べて俺っちは」ガックシとキヨタは項垂れる。
 
やや自信喪失気味のキヨタは好敵手と言えるリーダーに視線を投げる。そこにはワタルやハジメと笑声を上げている、余裕のヨウの姿が。

キヨタはまたひとつ溜息、自分が勝手にライバル視しているこの現状が情けなくて仕方がない。


リーダーは自分を好(よ)きチームメートだと思ってくれているのに。


それに我がリーダーはこの場に舎弟がいなくても、気にする素振りはない。

いつも一緒にいるくせに、傍にいなければいないで他の仲間とつるむ。