「変な奴でしたね、あいつ。喧嘩売ってきてたんでしょうか? ケイさん?」

 
チリン、チリン、チリン、キヨタは指で弾き宙に投げる硬貨をキャッチ。

 
同じ動作を繰り返して、「あいつ」何が言いたかったんでしょうね、改めて言葉の意味を俺に尋ねてくる。


三人寄れば文殊の知恵って言うけど、一人欠けているせいか、あるいはオツムの小さい俺達に問題があるせいか、まったく意味の理解が出来ない。


小難しい言い回しはまるで挑発のようにも捉えられたけど。


「ひとつ、俺から言えるのは…、あの人、あんま俺達をよろしくは思っていなさそうだ」


アスファルトにこびり付いた黒ずんだガムを脇目で見やりながら、俺は権兵衛さんについて意見する。

「分かるんっスか?」

回転しながら落下する硬貨を右手でキャッチしたキヨタが視線を合わせてきた。

「断言はできないけど」

なんとなく、そう思ったと俺は軽き眉間を寄せる。


「あくまで俺の感じ方だけどさ。
あいつの見据えてくる眼には、確かな嘲笑が宿っていた気がしたんだよ。

いや嘲笑だけならまだしも、読めない眼差しをしていたような」
 

暴露するとさっきから続いている寒気がとまらないんだ。情けないことに。

すっげぇヤな感じがしたんだ、俺達を見据えていたあの眼が。


その瞳に宿っている感情と向かい合うのに恐怖したというか、本能が警鐘を鳴らしたというか。嫌な予感がしたというか。


上手く言えないけど、なんか怖かったんだよ、あいつ。
 

「そうっスか?」


小癪な変人さんってかんじはしましたけど、そこまで強そうにも見えなかった。キヨタは軽く肩を竦める。


キヨタは感じなかったか。

ということは俺が過剰なまでにビビッていただけだな。

うん、絶対そうだ。

ははっ、やっぱ怖いんだろうなぁ。

不良まみれの毎日でも、ああいう染めたヤンキー兄ちゃん系にはビビる俺がいるわけで。

上っ面は平然とできるけど、内心じゃこいつとは気が合わないセンサーがびんびん働くんだよ。

あの兄ちゃんも本能的に気が合わないって思ったんだろうな、変な奴だったし。


「だけど俺、あの人…どーっかで会ったことあるような気がするんだよな。何処だろう? それとも俺の気のせいかなぁ」

「気のせいっスよ。もしも会っていたら、嫌でも忘れませんって。あんな変な男」