軽く笑い返すそいつは、「あげるよ」お守りにでもしてくれと片手を挙げて電柱から背を離した。

イラナイと突っ返すキヨタだけど、人の好意は有り難く受け取れなんて恩着せがましいことをのたまう。

カッチンくるキヨタとそれをどうどうと宥めている俺に、キャツは含みある笑みを浮かべてそれはきっと役立つよ、と指差してくる。
 

役に立つ?
 
なに、通貨まで今日の日本国はグローバル化したのか?

だったらドル札をお目にしても良い頃なんだけどな。
 

大体25セントって日本円にするとハウマッチ?

……あー、確か1ドルが百円位だろ?

だったら50セントは50円、25セントは…、やっぱ25円か? 何が買えるんだよ、25円で。近くに駄菓子屋はないぞ!

んでもってこのお金を持っていても商品は売ってくれないだろーよ。

換金所とかないし、25セント硬貨が一体何に役立つんだ?

イミフなんだけど。


貰っても困るものを受け取ったキヨタは相手に投げ返そうとする。


刹那、俺達に背を向けて歩き出すそいつは振り返って、

「25セント硬貨は幸にも不幸にもなる」

意味深に口角をつり上げた。

目を点にする俺とキヨタを余所に、目を細めてニンマリ笑ってくるそいつ。俺は反射的に足を一歩引いた。
 
なんだ、なんだなんだなんだ。

このゾクゾクッと背筋に悪寒が走ったのは、一体。



「幸運25セント硬貨。そういう題名の小説があるんだけどね。
君達の持たせた25セント硬貨は、果たして幸を呼ぶか不幸を呼ぶか。楽しみだね。ちなみに僕は裏面になることを予測しているよ」



いや予測じゃなくてこれは予言だね、君達はきっと硬貨の裏面になる。

「硬貨は嘘をつかないからね」

気を付けるんだよ、そいつはアクある笑みを残して今度こそ去って行く。

呆気取られていた俺とキヨタはおずおずと顔を見合わせ、次いで硬貨に目を落とした。


「意味分かったか?」


俺馬鹿だから分からなかったんだけど、そう白状すると、


「実は俺っちも」


半分も理解できなかったとポツリ。良かった、俺の理解力の問題じゃなかったのか。変な奴に絡まれちまったけど、結局なんだったんだろう。
 

言いたいことだけ言って消えちまった名無しの権兵衛に混乱しつつ、俺とキヨタは歩みを再開する。