「イケメン乙」
ボソッと愚痴れば、
「ケイさん?」
今のはなんっスか? キヨタが困惑気味に見上げてくる。
おーっと、どうやら俺は田山ワールドに引き篭もっていたようだ。
悪い癖だぜ、これ。
傍から見れば奇怪な事極まりないって利二から度々注意されているから、気を付けないとな。
直るかどうかは別だけど!
だって一人漫才は俺の生き甲斐だったりするわけだし?
これがなくなったら、
「俺は田山じゃなくなる。だよな、キヨタ?」
「ケイさん、俺っちを置いてどっかの世界に行かないで下さいっス! 兄貴、カムバーック!」
キヨタに嘆かれて俺は笑声を上げた。今のはわざだよ、わざと。
チリン。
チリン。
チリン。
何処からともなく金属の弾くような音が聞こえた。
パチン、と手を叩くような音も次いで聞こえてくる。
はて今の音は?
首を傾げる俺に倣ってキヨタも首を傾げた。
俺達には関係のない雑音だと思ったんだけど、またチリンっと金属音。
次いで聞こえてくる肌を叩く音。
立ち止まり、素早く振り返った俺は空高く放物線を描く硬貨を捉えることに成功する。
距離があるから断定はできないけど、あの色からして百円玉かな?
吸い込まれるように硬貨は人の手の甲の上に舞い落ち、その上から手でプレスされていた。
「さあて」
表か裏か、どっちでしょう?
数メートル先の電柱に寄りかかっているそいつは、ニッコニコ顔で俺達にその手を見せて声を掛けてくる。
妙に赤茶髪が印象に残る、私服の兄ちゃんがそこにはいた。
タメかもしんねぇけど、私服じゃあ分からん。
年齢不詳と称しておくべきだろう。
あれ、どっかで見たような顔だけど、俺の勘違いか?
「はあ?」キヨタは誰だよあんた、と喧嘩腰に話を切り出す。
「こらこら」喧嘩売らないの、俺が止めに入るとキヨタはぶすくれた顔で相手を睨み始める。
んでもって、「誰ですか?」質問を試みた。
俺達に喧嘩を売りにきた兄ちゃんじゃなさそうだけど。
俺の問い掛けに、
「表か、裏か、さあどっち?」
なるほど答えてくれないわけね。