下り坂に差し掛かり、俺はブレーキを掛けながらチャリを漕ぐ。

蓮さんは面白おかしそうに、あの時の俺達の失敗談を根掘り葉掘り聞いていたけど、
「ん?」不意に別のことに声を漏らした。


「どうしたんですか?」俺の問い掛けに、「…いや」なんでもない、蓮さんは意味深に肩を竦める。

「気のせいだな。うん、気のせい」

「蓮さん?」

「こっちの話。それより、ケイ、それで結局お前等、今後もバイクは使うのか? なあ?」







 


「―――…あら、誰か。此処を訪れたのかしら?」


 
 
看護師は病室で点滴のパックを変えながら、その部屋の変化に気付き、首を傾げた。
 
二時間ほど前にはなかったベッドテーブル上に、封の切られていない煙草が置いてある。

誰が置いて行ったのだろうか?
ご家族ではなさそうだし、患者の友達だろうか?


うん、きっとそうだろう。


彼の見舞い客はまさしく“不良”という輩が多かった。きっと見舞い客のひとりが置いていったに違いない。

それ以上、看護師は気にする事無く、点滴を変えてしまうと機敏な動きでレースカーテンを閉める。けれど窓は開けておいた。

空気を入れ換えるために。

 
 
同時刻、とある不良は路地裏を訪れていた。
 
生臭く湿っぽい路地裏にジベタリングをし、煙草をふかす彼の銘柄は未だに目を覚まさない患者と同じ銘柄。

物思いに耽りながら不良は、ぽっかりと見える青空を見上げて紫煙を吐いた。「阿呆が」毒づいた台詞は紫煙と共に空気に溶けていく。


にゃあ。
 

と、路地裏を通り過ぎる黒猫が不良を警戒しているのか、それとも何か他に思う点があるのか、こちらに向かって鳴いた。野良猫のようだ。

不良は息をついて、こっちを見つめてくる猫に苦笑。