電話しようとしていた俺を制したのはタコ沢だった。

無造作に携帯を閉じさせてくるタコ沢は、「連絡はしない方がいい」と意見してくる。


なんでだ、連絡しねぇとヨウ達に事を知らせることもできないし、俺達自身も迎えに来てもらわないと身の上が危ないじゃん。


ここは一度迎えに来てもらって体勢を整えた方が良いと思うんだけど。


本来しなきゃいけない任務は明日に回してもらって、まずは仲間に知らせるべきだと俺は意見した。

ご尤もだと相槌を打ってくれるタコ沢だけど、「不可解なんだゴラァ」すかさず反論。
 

「準備が良過ぎるんだよ。奇襲はそれなりに準備と状況把握を要する筈。
今の俺達が下準備をしているように、向こうだってある程度の下準備は要するぜ。
奇襲は相手の不意を突いてこその奇襲だからな。
なのに、仕掛けてきやがった輩はまるで俺達が行動を起こすことを知っていたかのように準備が良かった」


「そういえば、俺とキヨタを追って来た不良達もバイクを三台も用意してくれちゃってたな。
けど仮に俺達のことを見張っていたなら、事前に用意していたんじゃないか? 別に不思議じゃ」


「二人乗りしているチャリ相手にバイク三台だぞ?
チャリ戦法を使う荒川チームの噂を知っていたとしても、チャリ相手にバイク三台なんざ大袈裟だろうが」


バイクとチャリのスピードの差は高が知れている。

二台で十分なところを敢えて三台使ったというところも不可解なら、自分に寄越した奇襲組もまた不可解。

ヒトリ相手に対して執拗に追い駆けて来るところも、私服といったカモフラージュ戦法を使うところも、有無言わせず喧嘩を売ってくるところも、なにもかも。


準備と動きの良過ぎる敵方にタコ沢は、「あんま考えたくはねぇが」意味深に視線を投げてくる。
 

「これは仮説だが、もし“最初から俺達の行動を向こうが知っていた”ら…、貴様等、どう考える?」

「ゲッホ…、最初から? それって不可能じゃんか。最初から行動するって知るには、こっちに盗聴器とかでも仕掛けないと…。嘘だろ、まさか…、盗聴器役がいたってこと?」
 

まだ軽く咽ていたキヨタは、自分自身の台詞にハッと目を見開き、最悪の結論を出しちまう。

俺もまた絶句していた。それってあれじゃんかよあれ、スパイがいたってことか?

だからタコ沢は連絡しようとしていた俺の行動をとめたのか?

そんなまさか、俺達の中に裏切り者がいるだなんて信じられないんだけど。


「この説だったら」


バイクの件も、カモフラージュの件も、筋が通る。タコ沢は重い腰を地面に下ろして胡坐を掻いた。