「やっと撒けたみてぇだな」
エンジン音に耳を澄ませていたタコ沢はフンッと鼻を鳴らし、ざぶざぶと川底を歩いて橋の陰になっている岸へとあがった。
水飛沫を立てないよう俺も後に続き、「キヨタ。大丈夫か?」俺にしがみ付いてきている弟分の体を引っ張り上げて、その場にへたり込む。
川の水を飲んだのか、キヨタは嘔吐(えず)くように咽ていた。
軽く背中を擦ってやると、キヨタは涙目で「すんませんっス」俺っち水は不得意なんっス、と謝罪してきた。
だよな、お前、すっげぇ必死に俺にしがみ付いてきたもん。
ま、べつにいいんだけどさ、俺もさっき助けてもらった身分だし。
ゲホゴホと咽ているキヨタを介抱している一方で、情けねぇとタコ沢。
平然とした顔でローファーの中の水を外に出していた。
ワックスで固めているオールバックの赤髪が崩れている。
どうでもいいけど、お前、一言相談してから実行しろって。
マジ死ぬかと思った。
川底が浅瀬だったとはいえ、高架橋から飛び降りる羽目になるとは思わなかったぞ。
てか、制服どうしてくれるんだよ。
毎日使うんだぞ。
こんなにびしょ濡れになっちまって。
「チッ。携帯が死んでる」
タコ沢がブレザーのポケットから携帯を取り出し、荒々しくボタンを押して操作。
うんともすんとも言っていないようだ。見るからに型が古そう、分厚いしボディが疵だらけだ。
俺の携帯は防水加工済みだけど起動は…、良かった、起動してくれた。
発光するディスプレイを見つめて、俺は時間を確認。
俺達がたむろ場から経って小一時間は経っているようだ。
何も任務をこなせていないんだけど、あの状況下じゃしかたないよな。イキナリの奇襲だったし。
「あれは土地勘とか、そういう問題じゃなかったよな。行動を起こす前に奇襲とか、何処で見張られていたんだろう」
疑念を抱く俺だけど、取り敢えず事をヨウに報告しようとアドレス帳を開いた。
あいつも首を長くして報告を待っているだ「おい待てケイ」