恨めしく蓮さんを睨んだ刹那のことだった。
俺の手元から野菜ジュースの入ったペットボトルがすっぽ抜けた。
同時に俺の体は真横に飛ばされて、民家の塀へとぶつかる。
アイタタタ…、今のは一体…、後ろから蹴られた感がムンムンなんだけど。
脇腹に凄まじい痛みを感じて思わずその箇所を押さえ座り込む。
飲み口から流出する野菜ジュースが視界の端に映った。
あーあー、勿体無い。
「ケイ!」
蓮さんが駆け寄って来る。
けどその前に、誰かが俺と蓮さんの間に立ち塞がった。
ふんわり漂ってくる香水の匂いにつられて視線を上げれば、あじゃぱー、アッシュグレーの髪を持つ男が一匹。
雰囲気からして不良ってのは分かるけど。
ウルフカットを風に靡かせ、こっちを流し目にしてくる不良。
酷く冷たい瞳を持っていた。
無感情なんじゃないか?
そう思ってもおかしくない冷め具合に、俺の本能が警鐘を鳴らす。こいつ、危険だ。
「っ…、楠本」
蓮さんの紡いだその名前で、正体が判明。
奴が楠本 馨と呼ばれた不良。
榊原を心底慕っていた元野良不良、いやまた野良不良に戻ったのか?
どっちにしろ野良と呼ぶには相応しい目をしている。
冷然とした瞳が恐怖を煽られた。
くつりと喉で笑う楠本は久しぶりだな、と蓮さんにニヤリ。これまた恐ろしいほど歪んだ笑みを浮かべてくる。
「元気そうじゃねえか。あの野郎達とのお仲間ごっこは続いてるみてぇだな」
ハスキーボイスにも冷たさが宿っている。
蓮さんは舌を鳴らして相手の威圧を一蹴した。