蓮さんはどっちも裏切ってなんかいない。
 
向こうのチームに身を置いても心は浅倉さんにあったし、榊原側だって力づくで仲間にさせるそのリスクを考えていた筈。

舎兄を慕っていた蓮さんがそういう行動を起こすのも予想できた筈なんだ。
向こうの油断大敵ってヤツであって、裏切りとはまた意味合いが違う。

違うのだと否定するけど、蓮さんは曖昧に笑うだけ。

俺の訴えを受け取ってはくれなかった。


「これは弱かった俺の」報いなのかもしれない、しおらしく瞼を下ろした。
 

「裏切りのレッテルはきっと、簡単には剥がれない。そう思う弱い俺がいるんだ」
 
「蓮さんの気持ち、分かりますよ。俺だって未遂でも…」


「ケイと俺は違うさ。ケイは土壇場で仲間を裏切らない強い心を持っていた。俺は土壇場で仲間を裏切っちまう弱い心を持っていた。
これは俺の、一生のレッテル。戒めのレッテルだ」
 

俺は忘れてたんだよ、ケイ。


この事件が起きるまで楠本の廃人になったあの姿を。裏切り者と叫ばれたあの出来事を。復讐を誓っていた楠本そのものを。

和彦さん達が、裏切り者の俺達を、俺を温かく迎え入れてくれたから、すっかり忘れてた。

最初こそ縄張りが荒らされて嫌な予感は感じていたんだけど、感じていただけ。

今度は絶対間違えない選択肢を取るって心に決めていたんだ。



―…犯人が分かった瞬間、楠本の名前を聞いたその瞬間、愕然と絶望、自分に対する失望を感じたよ。



「まるで俺の犯した罪を忘れるなって言うように、現れてくれて…、ほんっと参った」
  
「そんなことないですっ、蓮さんはもう十二分に苦しんだじゃないですか! 浅倉さん達は痛いほど分かってる筈ですよ。自責する蓮さんなんて見たくないと思ってる筈です。
俺には不要な責任まで背負っているようにしか見えません。それに俺、言ったじゃないですか」
  
 
俺は蓮さんの肩に手を置いて真っ直ぐ見つめる。

揺れる漆黒の瞳が俺を捉えてくるけど、構わず強気に告げた。


「心配じゃなくて迷惑を掛けろ、です」と。