『例えどんな手を使っても…、俺はお前に思い知らせてやる。この苦しみっ』
『楠本…、お前の気持ちは分からないでもない。だが榊原のやり方は間違っていた。だから内発が起きた。そうじゃないか? 俺に賛同してくれた不良達は少なくとも』
『るっせぇ! サキさんを返せよっ、この裏切り者ッ―!』
―――…悔しそうに目から雫を零して叫ばれた瞬間、心臓が鷲掴みされた気分になったと蓮さんは声音を震わせた。
まさか楠本から“裏切り者”と呼ばれるとは思ってもみなかった。
浅倉さん達から“裏切り者”だと呼ばれることはあろうと、元榊原チームまで“裏切り者”と呼ばれるなんて。
だけど蓮さんは片隅で、「ああ。そうかもな」と思ったらしい。
心は確かに浅倉さん側にあろうと、一度は力に屈し榊原チームに身を置いた。
嫌々でも身を置いたのだから、楠本にとって蓮さんはチームメートであり一応仲間。
内発を起こすなんて一抹も予想していなかっただろう。
だから口にしたんだ、「裏切り者」と。
「今更になって俺のした行為は正しかったのか…、自問自答しちまうよ。楠本のような奴を見ちまったら尚更」
『エリア戦争』の勝者は後味の悪いものを噛み締めた。そして敗者もまた苦痛を味わっていた。
本当にあの喧嘩は救いようがないな、どちらを取っても辛酸しか取れないんだから。
「あの時、俺が」
蓮さんは物思いに耽る。
榊原に屈することなく、脅しを振り切っていれば…、浅倉さんを裏切らないで済んだ。
そしてまた、屈することがなければ、もっと別の形で喧嘩に決着がついていたかもしれない。
それこそ楠本に裏切り者と呼ばれるような行為をしなかっただろう。
自分は双方の裏切り者なのだと蓮さんは俺に素を曝け出した。
「違いますよ」
間髪容れず、俺は否定する。