「実はさ一度だけ、廃人になって彷徨っていた楠本に遭遇した事があるんだ」
 
 
そう、話題を切り出す蓮さんは、俺からペットボトルを取って水分補給。
 
息をつき、楠本の変わりように声を失ったよ。

失笑を交え、哀しそうに目を伏せる。
ある日の路地裏で出くわした楠本は、まるで生きた屍のようだった。

思わず声を掛けてしまうほど、生気を感じられなかったという。

声を掛けられた楠本は、虚ろに蓮さんを捉えて歪んだ笑みを浮かべたらしい。

んで、こう言ったそうな。


『さぞ満足だろうな』


サキさんをぶっ倒して、お仲間ごっこに戻れたんだろ? 良かったな、と。
 
何も言えない蓮さんに楠本は、狂ったように笑ったとか。

  
『ククッ、あっはっはっは! シてヤられたっ、サキさんは消えちまったし、また俺は野良だ! あっはっはっはっチョー傑作!』

『楠本…』
 
『ははっ、もういい。どーでもいい…、サキさんいねぇなら面白くねぇや。今更甘っちょろい浅倉の下に戻ろうとも思わねぇし。どーでもいい。もう…』


けどな蓮。

俺はお前だけはぜってぇ赦さない。

一度はお仲間の振りをして、内発を起こした主犯のお前だけは絶対赦さねぇ。

サキさんを消す契機を作ったっ…、俺の居場所を消しやがったお前だけは生涯懸けたって赦すつもりはねぇよ!


ッハ、哀れむような目で見やがって。

同情か? 胸糞悪い。
 

どっこのチームにも所属できねぇで転々としていた野良不良を拾ってくれたあの人を失った気持ち、居場所を失った俺の気持ちっ、お前になんざ分からないだろうなっ!

せいぜい今は浅倉の配下でお仲間のぬるま湯に浸かっておきな。

いつかは、そのぬるま湯を冷水に変えてやるから。


蓮、俺はお前を赦さない。

浅倉以上に俺はお前を赦さない、赦せない、赦す気なんざ毛頭ない。


お前があんなことしなかったら、勝てたかもしれねぇ喧嘩だったんだ。

サキさんは行方を晦ますことなんざなかったんだよ!