こっくり頷いてくれるココロだけど、俺が先導に立って歩み出せば、後ろからギュッとブレザーを掴まれた。

必然と歩みが止まる。

振り返ることも出来ず、頬を掻く俺は後ろから漂ってくる空気を肌で感じて目を泳がせた。
 

ふっと俺は彼女からブレザーを放させる。
 

空気に陰りを差したけど、振り返らないまま俺は引こうとする彼女の手を掴んで軽く握った。

なんだか足りないから、やっぱ振り返ることにする。

彼女の顔を見ず、やんわりとその体躯を腕に閉じ込めた。ココロの匂いが鼻腔を擽って、つい安心してしまう。

キャツが馴れ馴れしく撫でた、その頭を撫でて俺は呟く。

「気持ちを疑ったわけじゃないから」と。
「単に俺が嫉妬して拗ねていただけだから」と。
 

彼女の欲しい言葉を啄ばんでやると、ココロはうんっと嬉しそうに一笑。背中に手を回してきた。


ふっとした拍子にネガティブになりやすい彼女だから、人三倍、言葉と行動にしてやらないといけない。

こっちが恥ずかしい思いするんだけど、でも良いんだ。
小っ恥ずかしい気持ちなんて些少の問題。

ココロが笑ってくれれば、それでいいや。
 

でもちょい俺の言い分も聞いて欲しいわけで。
 

「あんま知らない男に」触らせないでくれよ…、本音をポロッと零す。

ある程度のスキンシップは我慢できても、例えばそれは見知り男限定。

ヨウやハジメが仮にココロの頭を撫でたりしても、まあ我慢できる。
あくまで“まあ”の範囲だけど。


それが俺の知らない男に触られたりしてみろ。

チョー腹立たしく嫉妬するんだって。

五反田の爽やか腹黒さも見せ付けられたし、尚更嫉妬する。


ちょいと脹れ面になる俺に、「ダイジョーブです」好きな人はひとりですもん、っとココロ。


いや、そういう意味じゃないんだけど…、触らせないで欲しいって…、ああもういいや。あれこれ言っても俺がダサくなるだけだし。


「ケイさんも、もうちょっと…、う゛ー…、構って下さいね?」


すぐに喧嘩とか男友達ばっかりに行っちゃうんですもん、脹れ面返しを食らい、俺は了解だとばかりに微苦笑。