「五反田って奴には、その警戒心…抱いといてな」


声が不機嫌になっちまうのはキャツの腹黒い笑みを見ちまったせいだ。

あんにゃろう、彼氏の前で「フリーだったら狙おうと~」とか言っちゃいますか? 言っちゃいますかね?!

くそ似非爽やか腹黒男めっ、サッカー部に所属しているんだか、日向男子なんだか、クラスの人気者なんだか知らないけど、ココロになんかしてみろ。ぶっ飛ばすぞマジで。


からかい半分で言ったとしても、その気がなかったとしても、ぜぇえってあいつとは仲良くするもんかっ! ああしないね。気に食わない!


思い出し不機嫌になる俺に、「ケイさん」嫉妬してるんですか? ココロがストレート質問アタック。

ダッサイけど本当のことだからぶっきら棒に「ん」返事だけすることにした。


俺だって嫉妬するんだよ。

見知らぬ野郎が好きな子にあれやらこれやら言われたり、頭撫でられたりする光景を目の当たりにするとさ。


早く青になんないかなー、ハンドルに持たれて頬杖ついた刹那、後ろからぎゅうううっとしがみ付かれた。
 

え、あ、ナニっ、ちょ、ナニナニナニっ、なんか、え? 抱き締めらてるカンジ? ま、街のど真ん中で?!
 

「あ。あの、ココロさん?」

「拗ねてる…ケイさんが可愛く思えたので、…つ…、つい」

 
首を捻って彼女と視線を合わせると、ポッポと顔を火照らせているココロがいた。

か、可愛いとか男の子に向かって言うもんじゃアーリマセンよココロ。男の子はな、カッコイイって呼ばれたい生き物なんだよ。

なのにっ、ッアーもう、勘弁してくれって。
子供染みた嫉妬してごめんっぽ。
 


信号が青に変わる。
俺はペダルを踏んでチャリを前進させた。

一切会話が飛び交わなくなっちまった俺等は、たむろ場に戻るまで一単語も発することができず。

澄んだ青空の下で倉庫裏にチャリを置き鍵を掛けた俺は、彼女の鞄を持ってようやく「中に入ろうか」と言葉を搾り出すことに成功する。