どうやら、知らないうちにわたしは圭吾さんの弱みを掴んだみたい。

あの絶叫事件の後、彩名さんにお説教を喰らった圭吾さんは、平謝りに謝り、夕食の席でもずっとわたしの世話を焼き続けた。

それはとても珍しい事だったらしく、伯母さんも彩名さんも和子さんを筆頭とするお手伝いさん達も呆気にとられていた。

そして24時間後には、わたしは圭吾さんに『志鶴』と呼び捨てにされ、『お気に入りの従妹』という立場にされ、親父が留守の間の保護者は圭吾さんって事になっていた。

おかげで今、ネクタイ締めた圭吾さんの運転する車で転校先の学校に向かってる。
ちらっと横目で圭吾さんを見ると

「何?」

何と言われても……

ききたい事は沢山あって、

たとえば、あの時、彩名さんのアトリエでどうやって現れたのかとか、圭吾さんが転校手続きに学校へ付き添うって言った時のみんなの不審な反応とか

「お仕事、休んでもよかったんですか?」

とりあえず無難な質問をしてみる。

「自営業だからどうって事ないよ」

そうなのか

「えっと……お仕事は何を?」

「家業を継いでいる。半分以上は不動産管理が仕事だね。趣味は読書で、好みのタイプは髪が長くて小柄で悲鳴の大きな娘」

「からかわないでください」

「だって見合いの席の質問みたいだったよ」圭吾さんは笑いながら言った。

「お見合いなんてした事あるんですか?」

「あるよ、何度かね。いつも先方に断られてばかりだけど」

信じられない。こんな綺麗な人なのに?

「みんな羽竜という家柄に惹かれるくせに、僕に会うと逃げ出す。彩名に言わせると僕は気難し屋らしい」

「ええと……そんなに急いで結婚しなくてもいいんじゃないですか? 圭吾さん、21? 2? まだ若いでしょう?」

「22歳だよ。でも、周りがほうっておいてくれない。うちは羽竜の本家だから」

深いため息一つ

「志鶴もそのうちに会うことになるよ。大叔父、大叔母、はとこ とかね」


うわぁ 会いたくない


「まずは学校だ」


車が右折した。

4階建ての大きな校舎が見える。