最初はどこから呼ばれているのか分からなかった。

返事をしそびれていると、圭吾さんの声の調子が変わった。

焦ったような声で何度もわたしを呼んでいる。

ああ三階のテラスから呼んでいるんだ。

「圭吾さん? 下にいるわ」

答えた途端にものすごい音がして、駆け降りたのか転がり落ちてきたのか分からないくらいの勢いで圭吾さんが階段を降りてきた。

驚いてその場に立ちつくすわたしの姿を見た途端、圭吾さんは片手で顔を覆って階段に座り込んだ。

「ここにいたんだね」

圭吾さんの声は奇妙なほどかすれている。

「夢を見て目が覚めたの」

「怖い夢?」

「ううん。海の王様が龍に囲まれて泣いている夢」

「ああ、それは竜城神社の龍神だよ。人間の花嫁に逃げられたんだ。泣きたくもなるだろう」

「側にいてあげるから泣かないでって言ったら目が覚めたの」

「何だって!?」

圭吾さんはギョッとしたように顔を上げた。

「志鶴! 簡単にそんな事言うんじゃない。連れて行かれるぞ」

「夢の中だったんだもの」

「もういい。朝になったら僕が自分で言い訳に行く。花嫁人形を奉納して許してもらおう」

「圭吾さんに似てた」

「先祖だからね。その逃げた花嫁の産んだ龍神の子供が羽竜の始祖だって言われている」

それから笑い出しそうな声で

「泣き落としに弱いとは思わなかった」って言った。