肩にそっと手を置かれて飛び上がった。
「お疲れさま」
ああ圭吾さんか
「負けちゃった。でも楽しかったぁ」
「彩名から預かってきたよ」
ふわっとかけられたのは薄物の羽織。
圭吾さんが袖を通してきちんと着せてくれた。
外国の映画ならさ、
コートを着せかけてもらう女性ってセクシーな大人の女性だけど、今のわたしは手のかかる子供みたい
「あれ?」
圭吾さんはわたしの体をくるっと回して自分の方に向けた。
親指がわたしの左の頬骨をなぞる。
「ケガしてる」
「スタートの時、ユキの羽がかすったからかな。痛くはないよ」
「ならいいけど。もうすぐ日没だから見に行こう」
「ユキはどうするの?」
「あいつらは今日は放っておいていいんだ――美月ちゃん、優月は裏参道で待ってるってさ」
「はい。三田先輩またね。約束忘れないでね」
それはこっちの台詞だよ
圭吾さんが怪訝そうな顔をしたけど、内緒。
「ああそれと大輔、志鶴には勝手に話しかけるな」
「何だよ、それ」
大輔君は腰に手をあて、挑むような目で圭吾さんを見上げた。
「志鶴は羽竜本家の客で、僕の従妹だ。お前のじゃない」
「ふーん。兄貴に優月とられたから用心してんだろ」
圭吾さんがスッと目を細めた。
本気で怒ってるよ
大輔君、ヤバいって!
「その通りだ」
圭吾さんが大輔君の胸に人差し指を突き付ける。
「分かっているなら口を慎め。司が何年冷遇されてきたか分かってるだろう?」
「言われなくたって、そんな女に興味なんかねーよ!」
「『話しかけるな』と言っただけだ。志鶴に興味なんて持ってみろ、ただではすまないぞ」
そういうと圭吾さんはわたしを引き寄せた。
目の前がキラキラ光る。
えっ? 待って! これって?
圭吾さんの片手がカーテンでも開けるような仕種をして、目の前の景色がグニャっと歪んだ。
おわぁ―――っ!
叫ぶわたしを連れて、圭吾さんは透明な幕に入って行った。